考える物置

日々あったどうでもいいことやどうでもよくないこと

007 林檎は熟して落ちた

別題 椎名林檎とぼく

 そもそも椎名林檎を聴きはじめたのは東京事変が最初であった。高校生の時、ベースを始めたばかりの俺に、クラスメイトが「東京事変きけよ、ベースかっけーぞ」と『教育』の入ったMDと一緒にバンドスコアまで貸してくれたことがきっかけだ。群青日和と遭難と御祭騒ぎのベースラインを気に入り、一気にコピーしたものだ。

 その後『無罪』→『勝訴』→『加爾基』と聴き、無罪だけ異様にズドンときたため通学・学習・睡眠のおともにヘヴィーローテーション(勝訴と加爾基は後ほど聴いてみたら激ヤバだった)。そのうちメンバーチェンジ後の東京事変から『大人』が出、「おっ」と思っていたら『娯楽』で「なんだこれ…」となり、そのまま椎名林檎関係の新作はレンタルで旧譜価格になってから追いかけるようになる。

 こうして振り返ると、僕は椎名林檎のロックサイドに魅力を感じていたことを再認識する。特に東京事変『娯楽』以降はギタリストとキーボーディストが曲を書くことが増え、ポップで振れ幅がすごく大きくなった。いろんなことができるメンバーだからかアレンジは洗練されている。しかしそれだけに(上手く表現できないが)、なんだか印象の薄い曲が多くなったことも確か。

 さてそんなこんなで待望の最新作『日出処』である。2回通して聴いてみた感想は、「まあこれはポップでいい曲達ですね」というところ。しかしこれは、やっぱり俺の期待する椎名林檎ではなかったな、である。

 かつてはズバズバと切れ込んでくる印象のあったメロディの運びだが、なんだか釈然とせず、いちいち頭の中に疑問符が浮かんでくるため入り込めない。それだけでだいぶ曲自体の説得力の無さを感じる。そこにさらに、レベルが大きいボーカル・コーラスが重ねられている部分が多い為、とっちらかっている。ホーンセクションやパーカッションもふんだんに取り入れられスタイリッシュなアレンジになっているが、純度が低く聴こえる。

 はじめからわかっていたことだが、『無罪』が好きな耳からしたらこれは残念盤。かつて"同情を欲した時に全てを失うだろう"と歌っていたが、はたして、と思う。